相続税の税務調査は何をする?(調査当日午前の部)
相続税の税務調査は何をする? 調査当日午前の部
相続税の税務調査は、午前中はヒアリング、午後はヒアリングをもとに通帳や証券類などの現物確認が一般的です。今回は、調査当日の午前に行われるヒアリング調査について、どのような内容の質問がされるのか解説します。
質問① 親族の状況について
親族の住所や年齢、学歴や職業といった具体的な質問を調査官がしてきます。この親族状況の質問を行う目的は、親族の年齢や職業などを確認して、親族の預貯金の残高が年齢や職業に相応しいものかどうか探るためです。
質問② 被相続人の学歴や職歴について
被相続人の学歴や職歴は、その人の財産形成に大きく関わります。出身校や就職時期、勤務先や仕事内容、役職、退職時期などの質問をされます。これらの質問の目的は、被相続人の職歴を基に、収入と財産のバランスがとれているかを確認することにあります。
質問③ 被相続人の転居の有無について
被相続人が転勤族であった場合、どこに転勤しどこに居住していたかが質問されます。この質問は、転勤先で不動産を所有していたか、転勤先で銀行口座を設けていたかの二点を確認する目的があります。
質問④ 被相続人の趣味や交友関係について
被相続人のお金の使い方を探るために趣味の質問をすることがよくあります。例えばゴルフが趣味であればゴルフ会員権をもっていなかったか、仮に売却していた場合にはその売却代金はどうしたか、といった質問につながります。
質問⑤ 被相続人の生活費について
被相続人の生前の生活費や医療費などが、毎月どれくらいかかっていたかという質問です。これは、生前に引き出された金額が、被相続人等の生活費として妥当な金額かどうかを判断するための質問で、後に行う現物確認の布石となるものです。そのため、この質問には慎重に回答することが必要です。調査官に回答した生活費の金額と、引き出し金額にギャップがある場合、その差額が問題となる可能性があります。
質問⑥ 預貯金の管理者について
被相続人の預貯金は誰が管理していたかの質問で、お金に関するキーマンを確認するための質問です。もし被相続人以外の家族が管理していた場合は、その相続人に質問が集中することになるため、誤解を与える回答をしないよう注意する必要があります。
質問⑦ 死因や病歴、入院時等の状況について
死亡直前の被相続人の言動や意思能力はどうだったか、一人で外出はできたか、会話はできたか、文字は書けたかなど、意思決定する判断力を持ち合わせていたかを確認する質問です。
もし家族が預金の引き出しをしていた場合、誰の判断で、何の目的か等が問われます。被相続人の生前の健康状態に関する質問は、相続財産としての判断を行う上で非常に重要な意味をもつため注意が必要です。
質問⑧ 生前贈与について
東京国税局管内の場合、調査官は被相続人の預貯金と家族名義の預貯金の残高や、入出金の流れについても、事前調査します。家族名義の預貯金残高が多い場合、名義人本人の固有の財産なのか、実質的には被相続人の財産となる預金なのかを調査します。その形成過程の確認の一環が、被相続人からの贈与の有無の質問です。贈与の事実があった場合は、正直に回答することがベストです。
質問⑨ 取引金融機関について
被相続人と相続人がどこの金融機関と取引しているかの質問です。調査官は実地調査の前に銀行調査を行っているケースが殆どで、誰がどこに口座を持っているか既に調べています。しかし、ヒアリングの時、調査官はそれを隠して質問してきます。これは、被相続人の口座だけではなく、相続人やその家族の口座についても質問してくるので注意が必要です。
質問⑩ 通帳・証書・印鑑の保管場所について
被相続人が使用していた通帳や印鑑等はどこに保管していたかという質問です。通帳などの現物の確認は午後に行われるのが一般的ですが、調査官がヒアリングの途中に保管場所を見に行くこともあるので注意が必要です。
その他、貸金庫に関する質問や葬儀に関する質問、相続財産の現状に関する質問など、10時に始まった午前のヒアリングは12時頃まで続き、一旦お昼の休憩に入ります。お昼を挟んで午後1時頃からは、現物確認の実地調査が始まります。
執筆者プロフィール
服部 誠(はっとり まこと)
税理士法人レガート
税理士・ファイナンシャルプランナー
税・財務の専門家として、個人の資産運用や相続・事業承継に関するコンサルティング、相続税の申告業務において多数の実績をもつ。
相続申告・贈与申告・譲渡申告などの関与件数は2,000件を超え、その経験を基にメディア等での執筆活動や講演活動も行っている。
著書:「相続税の税務調査を完璧に切り抜ける方法」(幻冬舎)、「贈与税の実務とその活用ポイント」(税務研究会出版局) 他多数。