相続税の税務調査は何をする?(調査当日午後の部)
相続税の税務調査は何をする? 調査当日午後の部
相続税の税務調査は、午前中はヒアリング、午後はヒアリングをもとに通帳や証券類などの現物確認が一般的です。今回は、調査当日の午後に行われる現物確認の調査について、どのような内容なのか解説します。午前のヒアリング調査で得た情報と事前調査で得た情報を突合し、矛盾点の裏付けを確認したり、事前調査で不明だった事項を探し出す作業が現物確認になります。
相続税の調査事項① 通帳や証書類
被相続人が保有していた預貯金の通帳や証書などの現物確認は、実地調査で必ず行われます。調査官は事前に銀行調査を行っており、口座の残高と過去の入出金の履歴は把握しています。
しかし、入出金履歴を把握していても、どんな取引内容か、何に使われたのかまでは分かりません。そこで生前の預貯金の動きで疑問に思うものについて、相続人に質問するとともに、被相続人が使っていた通帳等の現物を確認し、取引の内容や使途に関してのメモや記録がないかをチェックします。また被相続人名義の通帳等で、申告書に記載されていない預貯金がないかも当然チェックします。
相続税の調査事項② 貴重品の保管場所
相続税の税務調査官は、通帳や証書などが保管されている場所も必ず確認し、保管場所周辺の金融機関との取引書類や郵便物、過去の取引伝票といった原始書類の確認も行います。
銀行や会計事務所が作った「財産一覧表」や「相続税の節税提案書」などが封筒やファイルに入ったまま保存されていたり、生命保険の提案書や設計書が残っていたら大変です。通帳などの現物と同様、それらの保管場所についても事前チェックが重要です。
相続税の調査事項③ 印鑑
実地調査で通帳等とともに印鑑確認も必ず行われます。調査官は、被相続人が使っていた印鑑の提示を求め、すべての印鑑の印影をとり、それぞれの印鑑の用途を質問してきます。実印、銀行印、認印といった具合に、すべての印影をとってそれぞれの用途を記載していきます。それらの印鑑の中に親族名義の口座の届出印がないかもチェックしています。
相続税の調査事項④ 家族名義の通帳
家族名義の預金は、「名義預金」として申告漏れが疑われやすい財産の筆頭といえます。そのため、相続税の税務調査では家族名義の預金も調査の対象となるので注意が必要です。例えば専業主婦の妻や、子どもや孫の名義で多額の預貯金があった場合、真っ先に名義預金が疑われます。家族名義の預貯金残高が多い場合や、大きなお金の動きがある場合には、しっかりと説明できるように事前に確認し準備しておくことが不可欠です。
相続税の調査事項⑤ 退職金や保険金の振込先
人生のうち、大金が振り込まれるのは、不動産売却時、退職金や生命保険金が支払われた時などが想定されます。相続税の税務調査の際は、それらの入金があった場合、そのまま預金として残っているのか、残っていない場合は、何に使われているのかまたはどのような財産に変わっているのかを確認します。
相続税の調査事項⑥ 生活口座の有無
被相続人の通帳に、公共料金や固定資産税の振替や、給与振込や所得税の振替、借入金の返済などが確認できるかも相続税の税務調査のチェック事項です。これらの動きが確認できない場合、他の口座があるのではないかと疑われます。
相続税の調査事項⑦ 香典帳や芳名帳
葬儀の香典帳や芳名帳の確認を求められます。その理由は、銀行や証券会社、保険会社といった金融機関の人が来ていないかの確認です。もし金融機関の人の記載がある場合、それらの金融機関との取引が相続税の申告書に反映されているかを調査します。
相続税の調査事項⑧ 室内
これは必須項目ではありませんが、相続税の税務調査の場所が被相続人の自宅であった場合、室内に絵画や骨とう品、調度品といった財産価値の高いものがないかチェックすることもあります。
相続税の調査事項⑨ 貸金庫
貸金庫を利用している場合、保管物を調査当日に必ず確認します。調査場所内のことに注意を払う方は多くいらっしゃいますが、意外と貸金庫までは頭が回らないようで、手付かずのまま放置されているケースが多いのが実情です。相続税の実地調査では確実にチェックが入るため、注意すべきポイントです。
調査官が事前に入手した情報や資料と突合し、相続税の申告書に記載された財産が適正であるか、相続税の申告漏れがないかの確認がこの現物確認です。それぞれどのような目的で調査官が現物を確認するのかお分かり頂けたかと思います。ここに書いたことが全てではありませんが、万一、相続税の税務調査を受けることになった際の参考になれば幸いです。
執筆者プロフィール
服部 誠(はっとり まこと)
税理士法人レガート
税理士・ファイナンシャルプランナー
税・財務の専門家として、個人の資産運用や相続・事業承継に関するコンサルティング、相続税の申告業務において多数の実績をもつ。
相続申告・贈与申告・譲渡申告などの関与件数は2,000件を超え、その経験を基にメディア等での執筆活動や講演活動も行っている。
著書:「相続税の税務調査を完璧に切り抜ける方法」(幻冬舎)、「贈与税の実務とその活用ポイント」(税務研究会出版局) 他多数。